津軽三三爺譚

津軽の昔コ聞でけへ。

第6話:ぼさまと蛸

ぼさまと蛸

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 昔、目の見えないぼさまが、三味線を一つ抱え、杖つっぱって峠道をのぼった。麓でぼさまは、
「日のあるうちに峠を越えられないで、山中で泊まるようなことになれば、命が危ない。もう暮れも近いから明日の朝にしたらいいでしょう、ぼさま」
と親切な人に止められたのだが、強情っ張りなぼさまだと見えて、
「疲れたら山に泊まることにするから。盲には夜も昼もないですから」
と峠をのぼって来た。道も半分ほど来た時、一軒の空き家があった。ぼさまはさすがに疲れてきたので、ここで寝ることにした。
 真夜中になると、目は見えなくても、なんとなく寂しくなった。ぼさまは我慢できなくなって、三味線を弾いて声を上げて唄をうたった。
 風がざわざわと鳴った。ぼさまが一曲済むと、
「もう一つ唄をうたって聞かせてください」
と女の声が聞こえた。
 気がつかなかったが、きっとさっきから、そこに女の人がいて、ぼさまの唄をきいていたらしい。相手が女の人らしいので、ぼさまは安心してまたうたった。
 唄が終わると、
「もう一つうたってください」
と言う。ぼさまはまたうたった。終わるとまた「もう一つ」と言う。何回も繰り返しているうちに夜も白んできた。その時女は、
「ぼさま、ぼさま、私は本当はこの山の中に住んでいるタコです。お前様は山を下りて村に着いても、山の中で女の人に会ったなんて、決して言ってはいけません。そんなことを言えば、命はなくなりますからね」
と、やさしい声だが恐ろしいことを言った。
 ぼさまはぞっとして、「決して言いませんから」と約束して、峠を下って里に出た。煮売酒屋で休むと、亭主は怪しんで、
「ぼさま、ぼさま、こんなに朝早く着いて、昨晩はどこへお泊りでしたか」
と聞いた。
 ぼさまは口が軽く、
「昨夜は、私は峠の上の一軒家に泊まりましたよ。夜中に女の人が来て、私に唄をうたってくださいと言うので、一晩中うたって聞かせましたよ」
と言いも終わらぬうちに、ぼさまはころりと死んでしまった。そこに女が立っていた。酒屋の亭主はびっくりして、
「お前様は、誰でしょうか」と聞くと、
「私こそは、峠に住んでいるタコだ。今まで何十人となく人の命を取ったが、このぼさまだけは声がよく、一晩中面白い唄を聞かせてくれたから命を取らなかったのに、私の約束を守らなかったのでこうなったのだ。お前たちも私が来たことを言ったら、このぼさまのようになるんだぞ。その上、村を沼にしてしまうぞ」
と言った。
 これを聞いた酒屋の人々は、鉄棒をたくさん集めて、峠の周りにぐるりと柵を立てておいた。そして「他人には決して言わない」と約束すると、タコはのろのろと山へ行ったが途中で鉄棒にさまたげられて、棲家へ帰ることができずに途中で死んでしまった。
 村の人たちが集まってよく見ると、それは大蛇であった。村の人たちは後のたたりを怖れて、タコとぼさまを合わせて神様に祀った。これがオシラサマというものである。(北津軽郡金木町)