津軽三三爺譚

津軽の昔コ聞でけへ。

第4話:鬼の子デク

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 むかし、ある所に夫婦の百姓が住んでいた。ある日二人で畠に出て働いていると、急につむじ風が吹いてきて、妻を巻き上げて、遠くの方へ連れて行ってしまった。
 どかりと落とされたところは、どこの何というところか分からないで、困っているところへ一人の男が通りかかった。
「ここは、どこでしょうか」と尋ねてみると、今まで自分の住んでいた村よりも、何百里も離れているところだと分かった。
 今では帰る見込みもなく、男の家に誘われて行ってみると、一人者だったので、その人の妻になって暮らしていた。
 それから何年も経って男の子どもが一人生まれたのでデクという名を付けた。ところがその男というのは、鬼が化けていたものだったので、生まれた子のデクも額に小さい角が生えていた。
 しかしデクは利口な子で、その上親孝行であったので、妻も仕方なく三人で暮らしていた。
 つむじ風に妻をさらわれた夫は、妻のことが忘れられず、さらわれた方向を目当てに、妻の行方を探して歩いた。
 ある日デクが畠に出て働いていると、見知らぬ老人が歩いてきた。デクがどこへ行くのだと訊くと、「ずっと前に、つむじ風にさらわれた妻を尋ねて歩いているのだ」と聞いてデクは母の前の夫だと知り、母にそのことを告げた。母は驚いて老人に会ってみると、前の夫に違いないが、鬼の夫が恐ろしく、一緒に国へ帰ることもできない。
 デクは老人を家にかくまって、守ってやろうと決心した。夕方になって鬼が帰って来た。「ワイ、人臭いな」と騒ぎ立てて、デクの止めるのも聞かずに、家の中を探し回った挙句、押し入れを開けて老人を見つけた。デクは気が気でなく、
「ねえ、お父さん、この人を食べないでください」と言っても、
「いや、どうあっても食う」と鬼は言うことを聞かない。デクは、
「それならお父さん、賭けをしましょう。この人が負けたら、食ってもいいってーー」と言って、デクは父の鬼と老人と縄ない競争をさせた。デクは鬼に、ヘタヘタになるまで打った藁をやり、老人にはない易く打った藁を与えたので、鬼はヘタヘタ藁が手にべたついて、なかなかはかどらないうちに、老人は三把の縄をすぐないあげて勝った。
 次には小豆食いの競争をさせた。デクは父の鬼には、小豆の中に砂を混ぜて煮たのを与え、老人には砂糖の入った小豆を煮て与えた。鬼は砂をペッペッと、吐き出しているうちに老人は約束の分だけ、早く食ってしまったので、また鬼が負けてしまった。
 翌る日、鬼は老人を裏の釜場に誘い、釜を見てくれと言った。老人が何気なく覗きこむと、鬼はいきなり老人を突き入れて蓋をしてしまった。
「テグやぁ、すぐ薪コ持ってきてくれや、美味いもの煮て食わせるから」と言った。デクは早くも父のたくらみを知ったので、わざと家の中からすりこぎを持ってくると、
「馬鹿だな、そういったものは焚き木になるものか、薪を持って来いったら」「はーい」とデクは今度は箸を持ってきた。鬼は怒って、
「それなら、俺が薪を持ってくるから、お前は、この釜の蓋を押さえてろ」と薪を取りに山へ行った。その間にデクは、大急ぎで老人を釜から出して、三人で一生懸命母の故郷へ逃げ出した。薪をいっぱい背負ってきた鬼は、川を舟で渡って逃げていく三人の姿を見て、すっかり怒ってしまい、川にしゃがんで、川の水をぐいぐい飲むと、たちまち川の水がなくなって、舟が動かなくなってしまった。
デクは、「お母さん、お母さん、尻をまくってください」と言った。母はびっくりしていやいやながら尻をまくると、デクはヘラでピチャピチャ母の尻を叩いた。これを見た鬼はおかしくなって、思わずプッと吹き出した拍子に、口からも鼻からも、今飲んだ水があふれ出し、動けなくなった舟がどんどん押し流されて、やっと故郷の村へ帰ってくることができた。

 しかし、デクはやはり鬼の子であった。近所の子ども遊んでいても、よその子どもの耳をかじったり、指に食らいついたりするので、近所からいつも苦情がくるので、母も困ってしまった。デクはある日父と母との前に出て、「おいらは鬼の子だから、どうしても人を食いたくて仕方なくなってしまった。おいらのことをまな板の上にのせて、細かく刻んでください」と頼むので、父も母も仕方なく、泣く泣くデクをまな板にのせて細かく刻むと、デクの皮は飛んで蚊になり、肉は虱になり、骨は蚤になって、今でも人間を食うのだそうだ。(弘前市