津軽三三爺譚

津軽の昔コ聞でけへ。

第3話:蚤と虱のできたわけ

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 親父が死んで、女房と子供と二人、小屋に入って暮らしていた。山ガラガラと鳴らしてきた鬼が、掛けむしろをべろっとはいで、
「おっかあ」
と言った。おっかあは、
「あれま、怖いこと」
と言うと、
「俺は、今夜遊びに来た。糸を水につけておいたか」
と言う。おっかあは怖くて黙っていると、
「四結び、五結びばかり、水につけておけ」
と言った。
「糸はつかりました」
と言うと、
「そうしたら、ここへ持って来い」
と言って、むちゃらむちゃら食った。
「明日の晩まで、十結びも水につけておけ。俺は、家に行く」
と言って、行ってしまった。おっかあは水につけておくと、また、山をガラガラと鳴らして来た。
「糸を見ずにつけておいたか、おっかあ。こっちへ持って来い」
と言った。
「明日の晩も来るから、酒一斗買っておけ」
と言った。おっかあが買っておくと、また晩に来た。
「おっかあ、酒を買っておいたか」
と言うので、
「買っておいた」
と言うと、
「布、いくらほしい」
と聞くので、おっかあは、
「いくらでもいい」
と言うと、腹の中から「一尋、二尋」と布を出し、十尋も出して、
「おっかあ、今度は酒持って来い」
と樽に口をつけて、どくどくと飲んで、ごんごんと眠ってしまった。
 おっかあは子供と二人で、「ここへ寝ろ」と長持に入れ、湯を煮立てて鬼にかけると、
「おっかあ、ちかちか虫が刺すんだよ」
と言った。おっかあは、
「もう少ししたらよくなるよ」と、ぐわだぐわだと湯を沸かしてどうどとかけたら音がなくなって死んでしまった。
 二人は萱原へ持って行って、
「蚤になれ、虱になれ」

と叩いた。下へぼたぼた落ちたのは虱になり、上にびんびんはねたのが蚤になった。虱や蚤が人を食うのは昔の鬼であったからで、萱の赤いのは鬼の血だからだ。(中津軽郡西目屋村)