津軽三三爺譚

津軽の昔コ聞でけへ。

第2話:びきのつぶれた話

びぎのつぶれた話.mp3

びぎのつぶれた話.mp3 - Google ドライブ

昔むかし、あるところに猿と蛙がいた。
正月になったら、餅を食いたくて仕方なかったので、猿は蛙のところへ行った。
「蛙、蛙、餅を食いたくないか」
猿が言うと、
「うん食いたい」
と蛙が言った。
「そうしたら食いに行こう」
「うん、行こう。それでその餅はどこにあるんだい」
「あら、あら、あの音を聞け。べったら、べったらっていってるだろう」
「うん、そうしたらあそこへ食いに行こう。だけれど、どうやって取ったらいいだろうね」
「そうだな、あそこの家の裏で、おぎゃあ、おぎゃあ、って子供の泣き声をしてみなさい、そうしたらみんなびっくりして出てくるから。誰もいなくなったら、俺が餅を盗んでくる」
と猿が言うので、
「そうしたらー」
二人は相談をして、表と裏に別れた。
そこの家では、正月の餅を搗いていると、裏で「おぎゃあ、おぎゃあ」という赤子の泣き声がした。
「あら、棄て児だろうか」
とみんなは裏へ出てきて、「どこだ、どこだ」と探しはじめた。
猿はその間にそっと表から入ってきて、臼のまま餅を背負って逃げ出した。
蛙も一緒に逃げた。蛙がようやく猿に追いつくと、猿は坂の下で餅を一生懸命になって食っていた。
「猿、猿、俺にも食わせろ」
「いや、俺が背負ってきたのだから食わせない」
「だけど、俺が泣いたから、取ってきたんだろう」
「俺が、背負ってきたんだから、俺のものだろう」
と猿はまた臼を背負って、逃げようとしたが、坂が急なのでなかなか登れない。臼を横にごろごろ押しながら、坂を登っていく途中で、餅は臼から落ちてしまった。あとからきた蛙は、すぐにそれを拾って食っていた。
猿はちっとも知らないで、坂の上へ登って臼の中を見ると餅は入っていない。下を見ると、蛙が餅をしきりに食っているので猿が下りてきて、
「蛙、蛙、俺にも食わせろ」
「いや、俺が拾ってきたんだから食わせない」
「土がついたところでもいいから食わせろ」
というので、蛙は土のついているところを引きちぎって、「ほら食え」と猿の顔に投げつけた。搗きたての餅だから、熱いのなんのってなかった。

「あつつつつ」と猿は面を押えてとび上がった。猿の面が赤くなったのはその時である。猿は怒ってしまって、坂の上から臼をごろごろと転ばしてよこした。すると蛙は、その臼の下になって、ぎゃっ、ぎゅと目がとび出しべったりと平たくなってしまった。おしまい、おしまい。(南津軽郡藤崎町の話)