津軽三三爺譚

津軽の昔コ聞でけへ。

第7話:泡になって解けた雪娘

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 昔、爺さまと婆さまとあった。二人の間には子どもがなかったので、寂しい暮らしをしていた。
 ある吹雪の晩のことであった。外のひどい吹雪の風の音に混じって、戸口の所で子どもの泣く声が聞こえたので、爺さまは表の戸を開けて見た。
 するとそこには、白い着物をすっぽり着た美しい雪女が立っていた。手には子どもを抱いて、しょんぼりと立っていた。爺さまは、
「お前さま、どうしたんでしょうか。寒いでしょう、中へお入りなさい」
と言った。
「ありがとうございます。どうかこの子供だけ、ちょっと抱いてやってくれませんか」
と雪女が言った。
 爺さまは子どもを受け取って抱いてやった。そのとき、強く吹雪いて、雪女は粉々にくだけて飛んでしまった。爺さまはびっくりした。そして子どもを抱いて、急いで家へ入った。
 色の白い美しい女の子どもであった。
 爺さまと婆さまは、子どもを大切に育てた。子どもは色の白いきれいな娘になった。けれども、この子は小さい時からお湯が大嫌いで、入れようとすると火のつくように泣いて嫌がるので、ついぞ入れたこともなくて育てたが、大きくなるにつれて透き通るような色白な美しい娘になったので、お湯に入れて磨いたら、もっともっときれいな娘になるに違いないと、ある時、爺さまは風呂をたて、婆さまは嫌がる娘を無理やり叱るようにして風呂場に入れた。
 しかし風呂場入った娘は、何の音もさせない。爺さまも婆さまも心配になって、
「あねエ、あねエ、どうしたんだ。あんまり長く入っていると、のぼせてしまいますよ」
と戸の外で叫んだが、何の答えもない。風呂場の戸を開けて見ると、入れたはずの娘の姿が見えない。
「あねエ、あねエ」

と叫んで、湯の中をのぞくと、娘はもう解けてしまって、白い泡になって湯の上に浮かんでいたそうな。とっちばれ。(南津軽郡藤崎町

第6話:ぼさまと蛸

ぼさまと蛸

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 昔、目の見えないぼさまが、三味線を一つ抱え、杖つっぱって峠道をのぼった。麓でぼさまは、
「日のあるうちに峠を越えられないで、山中で泊まるようなことになれば、命が危ない。もう暮れも近いから明日の朝にしたらいいでしょう、ぼさま」
と親切な人に止められたのだが、強情っ張りなぼさまだと見えて、
「疲れたら山に泊まることにするから。盲には夜も昼もないですから」
と峠をのぼって来た。道も半分ほど来た時、一軒の空き家があった。ぼさまはさすがに疲れてきたので、ここで寝ることにした。
 真夜中になると、目は見えなくても、なんとなく寂しくなった。ぼさまは我慢できなくなって、三味線を弾いて声を上げて唄をうたった。
 風がざわざわと鳴った。ぼさまが一曲済むと、
「もう一つ唄をうたって聞かせてください」
と女の声が聞こえた。
 気がつかなかったが、きっとさっきから、そこに女の人がいて、ぼさまの唄をきいていたらしい。相手が女の人らしいので、ぼさまは安心してまたうたった。
 唄が終わると、
「もう一つうたってください」
と言う。ぼさまはまたうたった。終わるとまた「もう一つ」と言う。何回も繰り返しているうちに夜も白んできた。その時女は、
「ぼさま、ぼさま、私は本当はこの山の中に住んでいるタコです。お前様は山を下りて村に着いても、山の中で女の人に会ったなんて、決して言ってはいけません。そんなことを言えば、命はなくなりますからね」
と、やさしい声だが恐ろしいことを言った。
 ぼさまはぞっとして、「決して言いませんから」と約束して、峠を下って里に出た。煮売酒屋で休むと、亭主は怪しんで、
「ぼさま、ぼさま、こんなに朝早く着いて、昨晩はどこへお泊りでしたか」
と聞いた。
 ぼさまは口が軽く、
「昨夜は、私は峠の上の一軒家に泊まりましたよ。夜中に女の人が来て、私に唄をうたってくださいと言うので、一晩中うたって聞かせましたよ」
と言いも終わらぬうちに、ぼさまはころりと死んでしまった。そこに女が立っていた。酒屋の亭主はびっくりして、
「お前様は、誰でしょうか」と聞くと、
「私こそは、峠に住んでいるタコだ。今まで何十人となく人の命を取ったが、このぼさまだけは声がよく、一晩中面白い唄を聞かせてくれたから命を取らなかったのに、私の約束を守らなかったのでこうなったのだ。お前たちも私が来たことを言ったら、このぼさまのようになるんだぞ。その上、村を沼にしてしまうぞ」
と言った。
 これを聞いた酒屋の人々は、鉄棒をたくさん集めて、峠の周りにぐるりと柵を立てておいた。そして「他人には決して言わない」と約束すると、タコはのろのろと山へ行ったが途中で鉄棒にさまたげられて、棲家へ帰ることができずに途中で死んでしまった。
 村の人たちが集まってよく見ると、それは大蛇であった。村の人たちは後のたたりを怖れて、タコとぼさまを合わせて神様に祀った。これがオシラサマというものである。(北津軽郡金木町)


第5話:とんびの婿入り

 昔、まだ若い後家様があった。夫が死んでから、寂しくてたまらない。ある天気のいい日、裏に出て空を眺めると、とんびが「ヒョロロー」と輪を描きながら啼いている。
「ああ、とんびでもいいから、連れ合いがほしいな」
とひとり言を言った。
 するとその夜、一人の若い男が訪ねて来て、「私はどこへも行くところがないので、今夜泊めてください」
と言った。後家様は快く泊めてやった。後家様は次の日の朝、男を魚の行商に出してやった。こうして若い男は後家様と夫婦になって暮らすことになった。
 男は行商に行く途中、人のいない所で魚箱を降ろし、中の魚を出すととんびの姿になって、「ボッキ ボッキ」と魚を食い始めた。食い終わるとまた夫の姿になって後家様の所へ帰ってきて、
「今日は皆売れたが、貸しになった」
と言った。
 ある日、いつものようにお寺の杉林の中で、とんびになって魚をみんな食ってしまった時、いつも見ていたカラスが、
「とび殿や、あなたの奥様来ましたね」
と鳴いたので、とんびはびっくりして、
「どうして来るものか、うそばかり」
と答えた。そして帰ってきたとんびの夫は、
「今日もみんな貸しになってしまった」
と女房に言った。女房はどうも不思議でならないので、次の日、夫の後をつけて行って、やっとその訳を知ることができた。急いで先に帰ってきて、釜に熱湯を沸かし、夫が帰ってくると、
「おや、おや、疲れて来たでしょうから、足をあらってください」
と熱湯をたらいに汲んで出した。
「俺一人で洗うから」

と言ったが、女房はむりに、煮え立っている湯の中へ両足をつかんで入れると、夫の足は真っ赤に焼け、「ピョロロー」と一声叫んで、とんびの姿になり空高く飛んで行った。(弘前市

第4話:鬼の子デク

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 むかし、ある所に夫婦の百姓が住んでいた。ある日二人で畠に出て働いていると、急につむじ風が吹いてきて、妻を巻き上げて、遠くの方へ連れて行ってしまった。
 どかりと落とされたところは、どこの何というところか分からないで、困っているところへ一人の男が通りかかった。
「ここは、どこでしょうか」と尋ねてみると、今まで自分の住んでいた村よりも、何百里も離れているところだと分かった。
 今では帰る見込みもなく、男の家に誘われて行ってみると、一人者だったので、その人の妻になって暮らしていた。
 それから何年も経って男の子どもが一人生まれたのでデクという名を付けた。ところがその男というのは、鬼が化けていたものだったので、生まれた子のデクも額に小さい角が生えていた。
 しかしデクは利口な子で、その上親孝行であったので、妻も仕方なく三人で暮らしていた。
 つむじ風に妻をさらわれた夫は、妻のことが忘れられず、さらわれた方向を目当てに、妻の行方を探して歩いた。
 ある日デクが畠に出て働いていると、見知らぬ老人が歩いてきた。デクがどこへ行くのだと訊くと、「ずっと前に、つむじ風にさらわれた妻を尋ねて歩いているのだ」と聞いてデクは母の前の夫だと知り、母にそのことを告げた。母は驚いて老人に会ってみると、前の夫に違いないが、鬼の夫が恐ろしく、一緒に国へ帰ることもできない。
 デクは老人を家にかくまって、守ってやろうと決心した。夕方になって鬼が帰って来た。「ワイ、人臭いな」と騒ぎ立てて、デクの止めるのも聞かずに、家の中を探し回った挙句、押し入れを開けて老人を見つけた。デクは気が気でなく、
「ねえ、お父さん、この人を食べないでください」と言っても、
「いや、どうあっても食う」と鬼は言うことを聞かない。デクは、
「それならお父さん、賭けをしましょう。この人が負けたら、食ってもいいってーー」と言って、デクは父の鬼と老人と縄ない競争をさせた。デクは鬼に、ヘタヘタになるまで打った藁をやり、老人にはない易く打った藁を与えたので、鬼はヘタヘタ藁が手にべたついて、なかなかはかどらないうちに、老人は三把の縄をすぐないあげて勝った。
 次には小豆食いの競争をさせた。デクは父の鬼には、小豆の中に砂を混ぜて煮たのを与え、老人には砂糖の入った小豆を煮て与えた。鬼は砂をペッペッと、吐き出しているうちに老人は約束の分だけ、早く食ってしまったので、また鬼が負けてしまった。
 翌る日、鬼は老人を裏の釜場に誘い、釜を見てくれと言った。老人が何気なく覗きこむと、鬼はいきなり老人を突き入れて蓋をしてしまった。
「テグやぁ、すぐ薪コ持ってきてくれや、美味いもの煮て食わせるから」と言った。デクは早くも父のたくらみを知ったので、わざと家の中からすりこぎを持ってくると、
「馬鹿だな、そういったものは焚き木になるものか、薪を持って来いったら」「はーい」とデクは今度は箸を持ってきた。鬼は怒って、
「それなら、俺が薪を持ってくるから、お前は、この釜の蓋を押さえてろ」と薪を取りに山へ行った。その間にデクは、大急ぎで老人を釜から出して、三人で一生懸命母の故郷へ逃げ出した。薪をいっぱい背負ってきた鬼は、川を舟で渡って逃げていく三人の姿を見て、すっかり怒ってしまい、川にしゃがんで、川の水をぐいぐい飲むと、たちまち川の水がなくなって、舟が動かなくなってしまった。
デクは、「お母さん、お母さん、尻をまくってください」と言った。母はびっくりしていやいやながら尻をまくると、デクはヘラでピチャピチャ母の尻を叩いた。これを見た鬼はおかしくなって、思わずプッと吹き出した拍子に、口からも鼻からも、今飲んだ水があふれ出し、動けなくなった舟がどんどん押し流されて、やっと故郷の村へ帰ってくることができた。

 しかし、デクはやはり鬼の子であった。近所の子ども遊んでいても、よその子どもの耳をかじったり、指に食らいついたりするので、近所からいつも苦情がくるので、母も困ってしまった。デクはある日父と母との前に出て、「おいらは鬼の子だから、どうしても人を食いたくて仕方なくなってしまった。おいらのことをまな板の上にのせて、細かく刻んでください」と頼むので、父も母も仕方なく、泣く泣くデクをまな板にのせて細かく刻むと、デクの皮は飛んで蚊になり、肉は虱になり、骨は蚤になって、今でも人間を食うのだそうだ。(弘前市

第3話:蚤と虱のできたわけ

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 親父が死んで、女房と子供と二人、小屋に入って暮らしていた。山ガラガラと鳴らしてきた鬼が、掛けむしろをべろっとはいで、
「おっかあ」
と言った。おっかあは、
「あれま、怖いこと」
と言うと、
「俺は、今夜遊びに来た。糸を水につけておいたか」
と言う。おっかあは怖くて黙っていると、
「四結び、五結びばかり、水につけておけ」
と言った。
「糸はつかりました」
と言うと、
「そうしたら、ここへ持って来い」
と言って、むちゃらむちゃら食った。
「明日の晩まで、十結びも水につけておけ。俺は、家に行く」
と言って、行ってしまった。おっかあは水につけておくと、また、山をガラガラと鳴らして来た。
「糸を見ずにつけておいたか、おっかあ。こっちへ持って来い」
と言った。
「明日の晩も来るから、酒一斗買っておけ」
と言った。おっかあが買っておくと、また晩に来た。
「おっかあ、酒を買っておいたか」
と言うので、
「買っておいた」
と言うと、
「布、いくらほしい」
と聞くので、おっかあは、
「いくらでもいい」
と言うと、腹の中から「一尋、二尋」と布を出し、十尋も出して、
「おっかあ、今度は酒持って来い」
と樽に口をつけて、どくどくと飲んで、ごんごんと眠ってしまった。
 おっかあは子供と二人で、「ここへ寝ろ」と長持に入れ、湯を煮立てて鬼にかけると、
「おっかあ、ちかちか虫が刺すんだよ」
と言った。おっかあは、
「もう少ししたらよくなるよ」と、ぐわだぐわだと湯を沸かしてどうどとかけたら音がなくなって死んでしまった。
 二人は萱原へ持って行って、
「蚤になれ、虱になれ」

と叩いた。下へぼたぼた落ちたのは虱になり、上にびんびんはねたのが蚤になった。虱や蚤が人を食うのは昔の鬼であったからで、萱の赤いのは鬼の血だからだ。(中津軽郡西目屋村)

第2話:びきのつぶれた話

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昔むかし、あるところに猿と蛙がいた。
正月になったら、餅を食いたくて仕方なかったので、猿は蛙のところへ行った。
「蛙、蛙、餅を食いたくないか」
猿が言うと、
「うん食いたい」
と蛙が言った。
「そうしたら食いに行こう」
「うん、行こう。それでその餅はどこにあるんだい」
「あら、あら、あの音を聞け。べったら、べったらっていってるだろう」
「うん、そうしたらあそこへ食いに行こう。だけれど、どうやって取ったらいいだろうね」
「そうだな、あそこの家の裏で、おぎゃあ、おぎゃあ、って子供の泣き声をしてみなさい、そうしたらみんなびっくりして出てくるから。誰もいなくなったら、俺が餅を盗んでくる」
と猿が言うので、
「そうしたらー」
二人は相談をして、表と裏に別れた。
そこの家では、正月の餅を搗いていると、裏で「おぎゃあ、おぎゃあ」という赤子の泣き声がした。
「あら、棄て児だろうか」
とみんなは裏へ出てきて、「どこだ、どこだ」と探しはじめた。
猿はその間にそっと表から入ってきて、臼のまま餅を背負って逃げ出した。
蛙も一緒に逃げた。蛙がようやく猿に追いつくと、猿は坂の下で餅を一生懸命になって食っていた。
「猿、猿、俺にも食わせろ」
「いや、俺が背負ってきたのだから食わせない」
「だけど、俺が泣いたから、取ってきたんだろう」
「俺が、背負ってきたんだから、俺のものだろう」
と猿はまた臼を背負って、逃げようとしたが、坂が急なのでなかなか登れない。臼を横にごろごろ押しながら、坂を登っていく途中で、餅は臼から落ちてしまった。あとからきた蛙は、すぐにそれを拾って食っていた。
猿はちっとも知らないで、坂の上へ登って臼の中を見ると餅は入っていない。下を見ると、蛙が餅をしきりに食っているので猿が下りてきて、
「蛙、蛙、俺にも食わせろ」
「いや、俺が拾ってきたんだから食わせない」
「土がついたところでもいいから食わせろ」
というので、蛙は土のついているところを引きちぎって、「ほら食え」と猿の顔に投げつけた。搗きたての餅だから、熱いのなんのってなかった。

「あつつつつ」と猿は面を押えてとび上がった。猿の面が赤くなったのはその時である。猿は怒ってしまって、坂の上から臼をごろごろと転ばしてよこした。すると蛙は、その臼の下になって、ぎゃっ、ぎゅと目がとび出しべったりと平たくなってしまった。おしまい、おしまい。(南津軽郡藤崎町の話)

第1話:尻尾の釣

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むかし、猿と川うそが住んでいた。川うそが、毎日魚をとって食うのをみて、さるはうらやましくて堪らない。ある日、猿が川うそに向かって、
「どへば、そっただに、魚とるに好いば」ときいた。川うそは、
「あの川さシガマコ(氷)張った時、シガマさ穴あげで、その時(じき)やッて引(ふ)っぱれば、何ぼでも捕れらね」と教えた。そごで猿は、いい事をきいたものだと思って、早速川の氷の上に坐って、氷の上に穴をあけ、尾を水に差入れて魚の食いつくのを待っていた。
しばらくすると、猿の尾をびくらびくらと引っぱるので、「さア雑魚一匹食っついだ」と猿は喜んで尚もぢっとしていると、今度は前よりも痛く、びくびくっと尾を引いた。「今度ア雑魚ア二匹食っついだ。あ、三匹食っついだ。あ、四匹食っついだ」と尾が水の中で凍っているのも知らないで、引っぱられる度に勘定しながら待っていると、やがてもう尾が凍りついて、上げられないようになった。
「さア今度アあげでけべア」と猿は尾に力を入れて「ウン」と引き上げたが、尾はぴったりと氷に食いついてはなれない。
「ははア、こりゃ大きな雑魚だな」と喜んで、ウンウンと引き上げると、尾は根もとからぶっつりと切れ、前にのめってころんでしまった。
その時から猿の顔は赤く、尾が短くなったのだ。(西津軽郡鯵ヶ沢町七ツ石の話)